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執筆者の写真松本 啓嗣

マクドナルドの奇跡!誰がドラマの主役?劇的な復活にはワケがある。


2014年~2015年、プラスチックなどの異物混入や中国工場での賞味祈願切れの食肉使用やずさんな衛生管理、さらにはアメリカの労働紛争によるフライドポテトの販売制限など、相次ぐ不祥事や労争問題で、日本のマクドナルドも業績を落とし、2015年、遂には過去最悪の赤字を出すまでになりました。もうマックの時代が終わった、誰もそう思ったのではないでしょうか。しかし、翌2016年、マックは見事にV字回復を果たし、2017年もさらに業績を伸ばしました。マックの復活の裏には何があったのでしょう。マーケティングの視点が考えてみました。


主な内容

  • マクドナルドを襲う悪夢の連続

  • 誰が主役なのか、それがどんなドラマでも大切な鍵になる

  • コンセプトを実現させる鍵は具体的で適切な実現可能な施策

◇◇◇◇◇◇◇

■マクドナルドを襲う悪夢の連続

マクドナルドの業績不振はピークの2008年を境に既に始まっていました。下のグラフは2008年~2017年までのホールディング(マクドナルドホールディング)の業績推移を追ったものです。(マクドナルド全店の店舗売上ではない)


ホールディングの業績推移を見ると、ピークの2008年以降売上げが下がっているのがわかります。営業利益も2011年を境に下がり始めています。

実は全店舗売上では、2008年以降も伸びており、2010年には過去最高売上げを記録しました。しかし、それもつかの間、2012年4月頃から、一挙に売り上は減少し、その後も客離れは止まることはありませんでした。店舗売り上げもホールディングとしての業績も、下降の一途をたどるばかりです。

2013年8月、当時のCEO、原田氏が遂に経営を退き、日本マクドナルドは一人の女性をトップに据える決断をしました。それが現CEO、サラ・カサノバ氏です。まさに火中の栗を拾う交代劇です。

しかし、カサノバ氏の就任直後から、さらなる悲劇がマックを襲います。先ほどの異物混入や仕様機期限切れのチキン問題、そして、ポテトフライの販売制限です。

この不祥事はさらに状況を悪化させるキッカケとしては、まさにこれ以上のものはない、そんな最悪なものでした。それは、弱りかけていたマクドナルドにはあまりにも致命的な出来事です。崖から這い上がろうと必死にしがみつき、最後の力を振り絞って伸ばす手を、まるで、あざ笑うかのように振り払い、崖下に突き落とされる、そんな出来事でした。業績はみるみる下がり、2015年、過去最悪の赤字を記録することになります。誰もがマクドナルドはもう終わった、そう思ったに違いありません。

 

■誰が主役なのか、それがどんなドラマでも大切な鍵になる

いったい、そんなマクドナルドがどうやって、ここまで業績を回復させたのでしょうか?

マーケの得ダネは証券アナリストでも企業アナリストでもありません。また、マクドナルドが実際に行ってきた業績回復のための様々な施策を分析することも差し控えたいと思います。ただ、もう少し、マーケティングの概念的なところに焦点を当て、この復活劇を考えてみたいいのです。

実は、このマクドナルドの業績不振からの復活に関するさまざまな情報を集めていて気付いたことがあります。

それは、カサノバ氏の社長就任以来、大きく変わったこととです。

主役の交代

です。

それまでのマクドナルドの主役は本部や経営にあったのではないでしょうか?確かに、本部や経営は大切な機能です。その屋台骨が崩れては、全体の崩壊にもなりかねません。

しかし、もし、マクドナルドの社会的意義や価値が何であるかと考えるとき、それは何で、どこにあると思いますか?

カサノバ氏が日本マクドナルドの社長に就任した時、彼女は、その答えを既に持っていて、それを徹底させようとしているさなかに、あの出来事が起きたのではと考えています。あの出来事がなければもっと早く業績は回復していたとも思われます。しかし、逆にあの出来事があったからこそ、全社が一丸になれたのかもしれません。

マクドナルドの社会的意義と価値は

体験

だと、マーケの得ダネは考えました。私たちが子供の頃から、そして、レイ・クロックがマック兄弟からフランチャイズの権利を獲得した時から、マクドナルドが社会に提供してきたのは、さまざま「体験」です。家族との「体験」、友達との「体験」、恋人との「体験」・・・、マクドナルドは私たちに「体験」を与えてくれていたのだと思います。

そして、その「体験」がある場所こそが

現場

です。お腹を空かした子供たちや家族、友達同士や恋人同士・・・そんなお客様が集まる「現場」であり、そんなお客様たちをサーブする働く人たちがいる「現場」ではないでしょうか。

カサノバ氏は、そんなマクドナルドの「体験」を「現場」に戻そうとしたのだと思います。そして、そんな「現場」に集い「体験」する人たちこそが、マクドナルドの主役たちです。

つまり、それは

お客様

であり、

お客様と現場で接する、あるいは遠くからお客様のことを考える働く人たち

です。本部や経営はをそれをしっかりと支える機能です。演出家であり、ディレクターです。

 

■コンセプトを実現させる鍵は具体的で適切な実現可能な施策

これらのことは全て概念的なものでしかありません。コンセプトを実際の結果として形あるものに変えていくためには、具体的で適切な実現可能な施策を実行していくことが必要です。

実際にマクドナルドは数々の具体的な改革策を打ち出しています。カサノバ氏は全都道府県の現場(店舗)を訪れ、お客様や従業員の声に耳を傾けています。また、その中で「タウンミーティングwithママ」と称するお子さんを持つお母さんたちとのミーティングも実施しています。「マックカフェ バイ バリスタ」という全く新しいコンセプトのカフェのオープンも日本で始めています(マックカフェ自体は日本で誕生したものではありません)。新商品も次々と開発しています。誰もが良く知るところでは「グランシリーズ」がそうでしょう。厚切りベーコンにふんだんな新鮮野菜を乗せた素材にこだわった具沢山のバーガーです。バンズにもこだわっています。なんと試作品の数は200種類以上。実際に延べ6000人以上のお客の声を聞いて完成せた新商品です。

このようにどんどんと新しいことを仕掛け、導入しています。そして、その主役はいつも「現場」にいます。「現場」の「主役」たちから吸い上げて作ったドラマを「現場」の「主役」たちが自分たちのために演じています。まさに「体験」です。

離れていった「主役」たちが確実に「現場に」戻ってきています。そして、それは本部の業績にもしっかりと現れています。

レイ・クロックが作ったマクドナルドも、そのドラマは「現場」にあり「主役」は私たちでした。しかし、時代の流れと共に「主役」が「現場」から離れてしまいました。「主役」が取り残されていったのか、あるいは「主役」が求める「体験」がもうそこにはなかったのかもしれません。

今、日本のマクドナルドでは、新しい「体験」というドラマを創り、「主役」を「現場」に取り戻しています。しかし、時代はいつも動いています。古い体験に飽きたものは、また新しい「体験」を求めます。何かの拍子に「主役」不在が起きてしまうかもしれません。

「主役」たちが取り残されないよう、マクドナルドの挑戦はこれからもずっと続きます。

 

さて、ここでお話していることは、全てマーケの得ダネとしての見解です。実際にカサノバ氏に伺った話でも、またはマクドナルド社にインタビューした内容でもありません。様々な報道などを通して知り得た情報から、当編集局が導き出した一つの見解に過ぎません。



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